博報堂採用担当者の本音:「就職活動に“模範回答”ではなく、“あなたらしさ”を」

こんにちは、博報堂/博報堂DYメディアパートナーズの新卒採用担当、西本です。

このコラムでは私が採用担当者の本音として、学生の皆さんと接していて日々、思うことを紹介したいと思います。

 

学生と企業の「意識のギャップ」

就職活動における受け答えとして“正解”だと思われていることも、実は私のような企業の採用担当者から見ると「う~ん・・・」と悩ましく思ってしまうことが少なくありません。学生と企業の「意識のギャップ」とも言えるかもしれません。

もっと素直な気持ちで、自分の言葉で話してもらった方が魅力的に見えるのに、就職活動の正解の罠にとらわれ過ぎているのではないか、とも思います。そのため、就職活動を自分をより良く見せるテクニックの場にするのではなく、お互いに等身大の本音で向き合うことが学生・企業双方にとってベストな関係なのでは、というのが私の基本的な考え方です。

 

“模範回答”を追求する学生、でも企業は・・?

今回、学生と企業の「意識のギャップ」としてテーマにしたいのが、学生は就職活動のESや面接の受け答えで“模範回答”を追求する一方、企業側は素直に“あなたらしさ”を表現して欲しいと思っている可能性もある、という点です。

 

例えば私が一日100名面接したとします。すると、学生時代の象徴的な活動、いわゆる“ガクチカ”として「学園祭の実行委員」もしくは「ゼミ/サークルのサブリーダー」をあげる方に20名~30名ほど出会います。え、多くない?と思われるかもしれませんが、本当です。皆さんからすると一般的で、無難な“減点の少ない”エピソードに映るのではないかと思います。

 

誓って、その活動自体を否定するつもりは全くありません。本当にその活動に力を注いで、自らの成長の糧とした方も沢山いると思いますし、本当に素晴らしいことだと思います。

 

問題は、そのようなエピソードに続く話があまりに皆一様に似通っていて没個性的であることです。「表立った経験ではないが、縁の下の力持ちのような存在でした」「最初は全員が一つになれず問題が発生したが、一歩引いた目線で冷静に状況を分析し、話し合うことで解決に導きました」といったものです。

 

このような受け答えは、自分が訴求したい素養を最短距離で伝えるための手法として、就活マニュアル本にも同様の事例が模範回答として載っていることは想像に難くありません。

 

ただ、採用担当者の本音としては「う~ん、またか」であり、他の誰かと同じストーリーで“あなたらしさ”をどのように捉えたらいいのか、ということに苦慮してしまうのです。

 

学生側と採用側のスタンスの違い

恐らく、基本的なスタンスが学生側と採用側で根本的に異なるのではないか、と思います。学生の皆さんからすると、周囲と同じようなエピソードの方が「減点されない」、あるいは周りの学生との回答が被っていることに気づけず、模範回答にあてはめることが最も得をする、最適なアプローチであると考えているのかもしれません。

しかし、そのエピソードは私たち採用側からすると「加点要素がない」と映ってしまうリスクを秘めているかもしれません。

 

企業の選考は基本的に「この点を評価したい」「この学生の個性はこのような仕事で光るのではないか」という、加点式のプロセスです。 “減点されない”模範回答のエピソードは“加点もできない”つまり、応援することも難しいのです。そのため私は「う~ん、またか」に出会う度に、「もっと自分が面白いと思うことを素直に話してもらいたいのだけどなぁ」と思っています。

 

その人らしいエピソードとは?蟹の養殖をしていたT君の例

ひとつ、具体的なエピソードをお話ししたいと思います。

私が採用活動で最も印象に残ったエピソードのひとつとして「自宅の風呂場で蟹の養殖をしていた」T君がいました。

 

西本:「学生時代、どんな事をしていたの?」

T君:「蟹の養殖をやっていました。」

西本:「え、なにそれ?」

T君:「自宅のお風呂場で、日々完全養殖を目指して観察していました」

西本:「それ、多分研究とあんまり関係ないよね。笑 なんでやってみようと思ったの?」

T君:「研究で当時北海道にいたこともあるのですが、養殖成功したらカッコいいかなと思って。湯船には入れなくなるのですが、毛蟹たくさん食べられるので」

西本:「面白いね。笑 じゃあ、うちの会社でどんなことをやってみたい?」

T君:「毛蟹の養殖のようにデータを分析して、誰も出したことのないような答えを出してみたいです」・・・・

 

こうしたやり取りで、私はT君の「人ができないことをやってみよう」「自分なら成功するかもしれない」と思えるチャレンジ精神や、分からないことに対してトライアンドエラーを繰り返し、自分なりの答えを導きだすことができる探究心、広告会社の面接であえて「蟹の養殖」の話をする大胆さとユニークネスに魅かれました。

その後、彼は弊社で(蟹の養殖ではなく)データ分析の仕事をしており、大活躍をしています。

 

就活は“減点式ではなく加点式”

話を戻しますが、採用側は企業によって濃淡はあると思いますが、基本的には“加点式”のプロセスで見ています。あなたにしかないエピソードの中で、どんな長所があるのか?皆さんの応援団として、自社でどのように活躍できるポテンシャルがあるのか?を見抜くこと、必死に考えることが、採用側に課せられた責任なのだと私は思っています。

 

「就活のエピソードでは成功談を語らなくてはいけない」「成果を残していないといけない」これも就職活動に秘められた“正解の罠”だと思います。成功の大きさをポイント化している訳でもありませんし、実際にT君の蟹の養殖も確か成功していなかったような記憶があります。

 

一見地味に思える、成果を残していないエピソードであっても、私は“あなたらしさ”がにじみ出たエピソードを高く評価したいと思います。

 

是非、周りの人や就活本に書かれている“模範回答”にとらわれず、自分にしかない面白い経験や考え方は何なのか?を問い直し、ストレートに表現することにチャレンジしてみてください。きっと身近な所に皆さんひとりひとりが持つ、オリジナリティが眠っているのではないでしょうか。