・前回学んだこと → メンバーシップ型雇用のデメリット
デメリット④夫婦共働き、仕事と子育ての両立が難しく少子化が進みやすい
デメリット⑤正社員を守るため非正規が犠牲にされ社会的な分断が起きやすい(格差社会)
・今回学ぶこと → 若者はメンバーシップ型雇用=日本的雇用システム(終身雇用、年功序列など)についてどう感じているのか?
自宅から通勤したい若者
「福島さん、内定2社で悩んでいます。A社は自宅から通えるんですけど中堅企業で、B社は自宅から通えないのですが大手企業なんですよ。どっちがいいと思います?」
毎年たくさんの就活生と会っていると、このような相談を受けることがあります。
『え?!自宅から通うことはそんなに重要なの?』
最初私は違和感を感じましたが、このような価値観は今や就活生の常識と言っていいでしょう。自宅から通う方がお金もかからず、親も喜ぶし、安心できると彼らは言います。
一言でいえば安定志向ですね。
「第7回勤労生活に関する調査」(労働政策研究・研修機構/2015年実施/有効回答2118人)から若者の働くことの意識を見ていきたいと思います(この調査は20代〜70代以上の男女が対象で、20代=大学生とは限りません)。
若者(20代)は終身雇用が大好きである
まず「表1:勤労生活に関する意識(20代)」をみてください。
①終身雇用の支持率
1999年には20代の67.0%が終身雇用を支持していました。2015年には87.3%と20ポイントも増加しています。これは驚異的な保守化と言っていいでしょう。若者の9割弱は終身雇用を支持しているのです。
40代〜70代も支持は増えていますが20代の増加率が最も高くなっています。99年の調査開始以来、最高の支持率となっています。
毎年私は就活生と話をする中で男女とも安定志向が強いと感じていましたが、ここまでとは思いませんでした。
99年〜2015年とは「終身雇用、年功序列は崩壊した」と言われ続けた時期です。リーマンショックもあり将来不安も蔓延しました。ゆえに安定志向なのでしょう。社会が不安定化し、環境適応能力の高い若者は、ゆえに安定を志向していると思われます。
- 表1:勤労生活に関する意識(20代)
①終身雇用の支持率 |
②一企業に |
③年功賃金の支持率 |
|
1999年時点 |
67.0% |
36.6% |
56.2% |
2015年時点 |
87.3% |
54.8% |
72.6% |
※「第7回勤労生活に関する調査」(労働政策研究・研修機構/2015年実施/有効回答2118人)から20代の結果をもとに筆者作成
一つの企業に長く勤めることの支持率は20代が最も高い
終身雇用の支持を裏付けるように、②一企業に長く勤めることを望む率も増えています。 1999年には20代の36.6%が支持しました。2015年には54.8%と、これも20ポイント弱増加しています。
つまり一度就職したら転職せずに定年まで働きたいという人が半数以上になっています。表1には書きませんでしたが、20〜70代までの全年齢層の中で20代が最も高くなっています。今20代が最も保守的なようです。これはびっくりしました。
そして注目したいのは、①終身雇用支持率(87.3%)と②一企業に長く勤めることを望む率(54.8%)の差です。終身雇用を支持する人がすべて定年まで一社で働き続けたいと考えているわけではないようです。
「私は安定志向なので終身雇用を支持しますが、必要があれば転職しますよ」という現実主義者も多数いるようです。これは安心できますね。
若者は年功序列も好きである
「終身雇用を若者が支持するのはわかるが、年功序列はさすがに嫌がるのでは?」
私はそう思っていたのですが、あっさり裏切られました。
- 20代の年功賃金の支持率
1999年には20代の56.2%が年功賃金を支持。2015年には72.6%と約16ポイント増加しています。
前にも書いたように、年功賃金とは若いうちは安い給与で我慢して、中年以降で高い給与をもらうという考え方です。若いうちは働いた分はもらえないのだから普通は嫌うはずです。それでも支持するのはやはり保守的ということなのでしょう。
まとめ:働くことの意識(20代)
上記の三つのデータから20代の意識をまとめればこのようになるでしょう。
「①終身雇用という安心がほしい」ので若いうち給与が安くても「③年功賃金でいいですよ」。もし問題がなければ「②長く一社で働きたい」と考えてます。
この結果を見れば、新卒採用そして日本的雇用システムは、若者の価値観にがっちりフィットしています。
前にも書いたように、新卒採用が成立する背景にはスキルを求めないメンバーシップ型雇用という考え方があり、メンバーの雇用を維持(終身雇用)するために、部署異動、配置転換が必要となり、そのためには年功序列で評価しなければ社員は納得しません。
そんなわけで、過去の遺物と批判されている日本的雇用システムと若者の価値観は抜群の相性を見せています。
ところが問題点がいくつかあります。それは次回のお楽しみに。